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新槇町ビル別館第一2階
2014年8月19日
平成14年から平成24年の10年間/26%出荷額が減少
―― 印刷産業、ここ10年の推移 ――
印刷産業はここ十数年、非常に厳しい状況に置かれている。出荷額の下降トレンドは、我が国のGDPとの乖離を毎年強めている。平成24年(2012年)の工業統計では、印刷産業の総出荷額は5兆6,169億円で、対前年比98.4%(-1.6%)となった。前年の平成23年(2011年)が対前年で-7.6%だったので、だいぶ回復したとは言える。
では10年前の平成14年からの推移はどうなのか。
CAGR(年平均成長率)で毎年-3.0%、10年間の合計で26.2%もマーケットサイズが縮小した結果となった。
以下のグラフと表は、この10年の変化を工業統計からまとめたものである。平成33年は、過去の10年と同じ減少率で推移した場合の出荷額等の推算値である。今後の市況や技術、業界の構造の変化などは考慮されていないので、予測値ではない(予測については現在調査分析中)。
出荷額はこの10年間で26.2%減ったわけだが、原材料費は21.3%減にとどまり、人件費(工業統計「現金給与総額」)は-28.7%。差し引きの利益(製品出荷額-人件費および原材料費)はマイナス31.9%と大きく減ったことになる。
利益率は、平成14年の30.8%から10年間で28.4%まで下降し、今後も売上と経費が同じ率で推移したと仮定すると、10年後の平成33年には、印刷産業の利益率は25.8%まで落ち込む計算になる。
ここ10年の推移を事業所当たりで見てみる。
(例:総出荷額÷全事業所数=1事業所当たり平均出荷額)
以下の表の下段にあるとおり、人員は微増だが、出荷額は微減の傾向になっている。事業所当たりでも原材料費は上昇し、それを調整するかのように事業所当たりの人件費は下降気味である。
参考までに「1従業者当たりの人件費<現金給与総額>」を示してあるが、これは給与水準の下降というよりも、業務が減ったことによる残業代の自然減や、契約社員・パート社員の比率を上げるなどの取り組みがその中心だろう。
ここで注意しなければならないのは、以下の2点である。
@原材料価格(費用)の上昇。
A競争による受注価格(単価)の下落。
印刷需要が低調な中、この二つはダイレクトに利益を圧迫する。とくに問題は、「A」による受注価格の低下である。単価が下がり生産数量が変わらなければ、上昇する原材料コストが利益を大きく減らすことになる。
経営者としては印刷機の稼働率を気にするところだが、稼働率が高まることでかえって利幅を狭めてしまう現象が起きないとも限らない。
―― 「値下げ競争」ではなく「アイデア合戦」に ――
取引先からの値下げ要請や、競争入札などの場面では、思い切って印刷物の数量を削減する提案を、しなければならなくなるかもしれない。
その場合、発注者が気にするのは、数量を減らしたことによる効果の低減だ。印刷会社は明確に、その心配と疑問に応えなくてはならない。
例えば、製品カタログならば、ページ数が減っても充分に内容が伝わるようなデザインやコンテンツ力が問われることになる。クロスメディアによる連携や、ピンポイントにデジタル印刷を充てるなどの提案もその一つだ。会社案内ならば、受付に置くものと営業用の薄くて軽いものを作り分け、在庫を極力少なくするような提案も、一つのアイデアだろう。顧客を日常的に観察していれば、デジタル技術を使わなくても提案できることはあるはずである。
数量が落とせない場合は、紙などの質を変えるなどでコスト対応できる力も、これからはますます問われるようになるだろう。
紙質が落ちても、見た目は従来と変わらない品位を再現できる技術や、それを説明して説得できる能力が求められるようになる。これは印刷機材メーカーの研究開発も待たれるところだ。
印刷の発注量が減る中で、それに対応できる商品やサービスと、それを支える技術と理論が、これからの印刷会社には求められるのではないだろうか。その上で一歩進んで、効果的な印刷物の使い方や、「無駄な印刷費の削減」などが提案できるのが理想的である。
提供する印刷物は、あくまでもお客様の問題を解決するソリューションの“一つのパーツ”という位置づけだ。「物」から「サービス」への転換である。
―― 10年後の印刷産業 ――
平成33年度の数値はあくまでも仮で実際の10年後はもっと厳しいとも限らない。原材料の上昇や受注単価の下落、企業のコスト抑制などは想定できたとしても、印刷(紙メディア)そのものの利用価値について、今後さらに予測が難しくなるからだ。
世の中は急速に変化している。インターネットの出現は、情報の流通に革命を起こしたが、その周囲で小さな革命は今も起こり続けている。それに合わせて時代にそぐわない仕組みやサービスは、次々に淘汰されている。技術やサービスの変化とともに、我々受け手の価値認識も変わり、それがまたサプライサイドのサービスに影響しているのである。
変化は常に外部からやってくる。日本のビジネス社会で言えば海外のビジネスモデルであり、印刷産業から見れば、コンピューター業界や通信業界、そしてマーケティング業界からの新技術や新サービスがそれに当たるだろう。
周囲が変われば、その中身も変わらざるを得ない。印刷業界以外から紙メディアに替わるものが提案され、それがユーザーに受け入れられてしまったら、逆に戻すことは不可能なのである。
しかし、印刷物がすぐに無くなるというものではない。一方で、設備投資と技術の蓄積が必要な印刷産業への新規参入は考えづらい。縮小傾向にあるとしても、依然として大きな印刷マーケットで、印刷会社は独占的に活動できるのである。
それを有効活用し、印刷に隣接する、あるいは一部を代替するサービスを、いかに積極的に取り込んでいけるかが、今後の10年の明暗を分けるだろう。
※本レポートは、弊社マーケティングレポート制作上の仮説構築のためのデータ分析や入手情報、途中経過を
報告しているものです。
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