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見出しBUSINESS & MARKET REPORTS

2015年3月9日

出版産業の近況/出版メディアの利用状況と電子書籍

出版メディアの利用/メディアにポジティブな10代が今後の鍵

―― 書籍の販売は安定か。雑誌の落ち込みが継続 ――

 下のグラフは、出版販売額(出版科学研究所)と、経済産業省「特定サービス産業動態調査」(平成26年)との比較である。平成26年の同調査の対象事業所数は266事業所、1事業所当たり従業者数64.5名となるので、中堅クラス以上の出版社の調査結果と見ることができる。
 出版販売額に占める比率は43.9%(H26)になるが、調査対象事業所数は平成20年が229事業所、平成26年が266事業所と増えているため、出版販売額全体に占める比率の上昇があるが、総販売額における大手・中堅出版社のシェアが高まっているとは判定できない。


 次のグラフは、毎年の調査事業所数の変動要因を少なくするため、1事業所当たりの平均の数値を算出し、推移を示したものである。


 事業所当たりの総売上高は、2012(平成24)年を境に、やや回復の傾向にある。その内訳では、書籍販売収入が増加からやや減少に転じたが、大きな落ち込みは免れそうである。広告料収入も微増の方向にあり、電子出版収入が、2013年の総売上高比率2.9%を2014年には3.9%に高め、上昇基調にある。一方、下降が継続しているのは、雑誌販売収入である。




―― 販売が順調な電子出版 ――

 次のグラフは電子出版収入の推移を示している。右肩上がりで着実に収入額を増やしていると言える。


 ただし、対前年同月比、前月比で収入の推移をグラフ化すると、若干だが伸び率が縮小する傾向があるように見える。もちろん、状況が変われば伸び率の幅も拡大することになるので、現時点までの傾向ではあるが、注意すべきは、電子機器の普及と新しいサービスやコンテンツの増加を無視できない点である。駅前の書店なら、出版物で売り場を独占でき、訪れる人の目に触れさせることができる。インターネットとなると、他のコンテンツとの競合が避けられなくなるからである。



―― 出版メディアの利用状況 ――

 次のグラフは出版メディアとインターネットを比較した結果である。調査期間の休日1日を含めた3日間につき、どのようなメディアにどの程度の時間接触したかを日記形式で記録した結果である(総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 」)。この期間中の結果であるので、外出率を左右する季節要因やイベントの有無などで、この結果が変わる点は注意が必要である。以後の数値は、結果を概観できるように休日と平日を合算して再計算してある。

 インターネットの利用率は、パソコンやスマートフォンなどどの機器でもアクセスした場合はカウントされている。一度でも利用(行為)すれば利用率(その行為者の率)となるので、スマートフォンなどの普及で接触が容易になったインターネットや、中高年層でほぼ習慣化されている新聞閲読などの率は高くなる。


 10代はインターネットも出版メディアも、どちらにも接触している率が高く、書籍、雑誌、コミックと利用している出版メディアの種類も多い。それが20代になるといったん落ち、30代以降は書籍の利用率が上昇する。雑誌はややばらつきがあるので、年代別の傾向はつかみづらい。性別では、女性の雑誌の利用率が高く、コミックについては、年代の上昇とともに利用率が下降する。

 次のグラフは、新聞とインターネットの利用者の利用(閲読)平均時間である。新聞利用率の低い若い世代ほど、利用時間も少ない。年代が高まるにつれて、利用率と同様に新聞の閲読時間も上昇する傾向が顕著である。


 同様に、出版メディアについて比較したのが次のグラフ(上段:利用率 下段:利用者の平均利用時間)である。

 利用者の利用平均時間については、例えば、30代以降のコミックの利用者は少なく、利用時間の計算も数十サンプルの平均値となるため、やや回答にばらつきが出ている。ただ全体的な傾向を知る上では、利用者の平均利用時間(閲読時間)について年代の上昇とともにやや増加する動きがあるものの、年代ごとの大きな差はないと見ることができる。




 インターネットの利用時間と合わせて考えると、10代は接触率の高さ、接触時間の長さから、総じてメディアに対してポジティブであると言えるだろう。40代も、インターネットなど新しいメディアを使いこなし、同時に書籍や新聞の利用も多く、情報を幅広く必要とする世代とも言える。


―― 出版物の今後 ――

 年代が高い層ほど書籍の利用率が上昇するが、一つには仕事上の必要性の高まりや、社会への意識の変化などがあるのかもしれない。ただ、中高年層はインターネット環境が整う前から書籍と親しんできた。情報取得では書籍を重視し、習慣化されていることもありうる。

 一方、10代、20代などインターネット環境が当たり前の世代にとっては、書籍は限定的な利用にとどまることもありえる。今後、歳を重ねるごとに書籍の利用が、現在の中高年層のように高まるとは限らないかもしれない。

 重要なことは、現在の10代に今後も出版物に親しんでもらうことだろう。ライフステージの変化に合わせた書籍の制作や、年代とともに変化し、あるいは変わらない趣味・ファッション情報の提供、少年・少女の頃を思い出してもらうようなコミックの企画など、読者とともに歩む姿勢が、出版メディアにはますます求められるのではないだろうか。

―― 電子書籍/雑誌の今後 ――

 次のグラフは「ダウンロード済み書籍・雑誌の閲読」に関する回答結果である(注:パソコンを使わない人も含めた全体での率。それぞれの利用者別では、タブレットPCユーザーが2.0%、携帯・スマートフォンのユーザーが0.6%、パソコンのユーザーが0.4%<いずれも平日の利用率>)。
 調査上の定義では「携帯電話・スマートフォン・パソコン・タブレットパソコンで一度ダウンロードした書籍・雑誌を読んだり、辞書、百科事典などを利用したりする」とあるので、そのまま電子書籍/雑誌の利用を意味しているとは限らない。ただ、傾向を見る上では参考になる結果である。



 調査3日間に限られたこともあるが、「ダウンロード済み書籍・雑誌の閲読」の利用者の率は非常に低い。インターネットの利用率と同様に、若い世代ほど利用者が多い結果となっている。ただ一方で、サンプル数の点で参考値と言えるが、年代の高い層ほど閲読の平均時間は長くなる傾向がある。書籍に慣れ親しんだ世代は、紙の書籍と同様に、電子系の出版メディアでも、ゆっくり時間をかけて読んでいる姿が想像できなくもない。

 若い世代については電子メディアに親しんでおり、インターネットのスキルもあることから、電子出版物への移行への抵抗感は少ないだろう。現在はコミックを中心に読まれていると言われているが、一般書籍や雑誌についても電子版利用の可能性は高い。

 電子書籍はタイトル数も増え、販売サイトも充実してきた。ハードウェアとなるスマートフォンやタブレットの普及も進んでおり、電子書籍リーダーも用意されていることから、電子書籍/雑誌の普及の条件はそろってきている。紙メディアとの価格差や、所有と利用権の違いによる戸惑いや、電子書籍ストアの閉鎖によるトラブル事例などもあったが、普及は徐々に進むだろう。

 ただし現状の出版社における電子出版収入の推移や、今回の消費者調査の前年の結果との比較などから、急速に進む気配は今のところ認められない。当面は紙の出版物と従来の書店やオンライン書店などからの購入が中心と考えられる。

 利用者は必要に応じて、紙とデジタルを使い分けるようになるだろう。また、スマートフォンによるインターネットやアプリケーションソフトウェアなどが、移動中の車中や待ち合わせの合間など、隙間時間での利用が多いことから、ページ数の少ない電子書籍が注目されているという話もある。雑誌の読み放題のコースなど、バリエーションが出てきている。従来の紙の出版物の電子版が出る一方で、他のサービスやコンテンツとの連係や融合をしてデジタルならでは出版物が誕生してくることもあるだろう。

また、タブレットパソコンの普及やインターネットの利用が年齢の高い世代へ広がっていることから、電子版ならではのメリット(文字サイズが変えられる/保管場所をとらない/絶版がない等)が認められれば、年齢の高い世代での電子出版物の利用率も高まると予測できる。


―― 出版社の今後 ――

 次のグラフは出版社の規模別の返品率を表している。販売力があり、また企業規模の点から売らなければならい冊数も大きくなるからか、中・大手クラスの出版社の方が返品率が高い。
 一方、従業員規模で4人以下のような小規模な出版社は、当初から制作・製造数は絞っているはずだが、書籍の販売がより厳しくなっていることもありうる。
 インターネットによる出版物の販売や電子出版の登場で、小規模出版社にも販売チャネル上のチャンスがあるといえるが、大手出版社がしのぎを削る中、中小出版社が新刊等の情報を必要とする読者に届けることは、やはり難しい課題であると言えるだろう。
 
 売れないから返品が増えるのか、返品されるような企画だから売れないのか、という議論もあるが、他の既存メディアと同様に、インターネットなどの新しいメディアや無料のゲーム、SNSなどに利用時間や一部の利用目的(情報の入手等)を奪われているためで、これはどの出版社においても不可避なことである。


 現行の電子出版物は紙の出版物の電子化が中心であるが、紙の出版物の売れ行きが思わしくないのならば、企画やコンテンツの工夫だけでは、電子化しても売れ行きはあまり変わらないのではないだろうか。

 デジタル化することで高度なマーケティング手法と技術が付与され、潜在的な読者に新刊の情報が届くような仕組み作りも必要である。販売のロングテール化、海外マーケットへの進出、電子書店ストアへの来店履歴や購読者の記録を活かすことなども今後のポイントである。

 大きな流れをまとめると、以下のようになる。



 これらを実施する上で、電子書籍/雑誌も含めたコンテンツのデジタル化はポイントである。出版物のターゲットはこれまで以上にセグメント化されていくだろうし、それに積極的に対応できる制作・製造の体制の再構築も必要である。

 電子化のみならず、POD(プリント・オン・デマンド)の導入も鍵となる。PODで制作した少部数の書籍で初版の売れ行きをデータとして追跡できる仕組みや、特定の読者向けの高額なタイプの出版物の制作など、少部数印刷のコスト縮小で、紙メディアの可能性が広がることになるだろう。

 前述の出版社の規模別の書籍の返品率にもあるとおり、コストと印字品位が合えば、返品ロス低減のためのデジタル印刷の必要性が、小規模出版社で高まるかもしれない。

 電子化を待たずとも、紙の出版物とAR(拡張現実)との組み合わせによる出版メディアの付加価値化も進めたいところである。
 ARの活用で、これまでの雑誌広告に幅や深み、新しいビジネスへの発展性を持たせることや、書籍に広告機能を付加することも可能である。書籍や雑誌は、特定の分野や趣味に興味のある人の潜在的なコミュニティであるため、広告に活用すれば、ターゲットへの到達力や訴求力は高いはずである。例えば地方の出版メディアと観光との組み合わせなどは、経済の活性化にも貢献し、活動として価値あることである。

 現行の主要出版物の返品による利益のロスを縮小するためにも、少部数かつ必要に応じて供給できる印刷システム(デジタル/非デジタル)が求められてもいる。

 出版物の電子化の率は緩やかであり、またすべてが電子化されるわけではなく、当面は紙のメディアが主力であり続けるだろう。印刷技術の壁は高いが、現行の紙の出版物の返品率の縮小につながる改善は、出版界にとっては大きいはずである。

本レポートは、弊社マーケティングレポート制作上の仮説構築のためのデータ分析や情報入手、途中経過を報告しているものです。


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